
ふとした瞬間に鏡に映る、キラリと光る一本の白髪。
「あれ、こんなところに…」
見つけるたびに、なんだか少し憂鬱な気持ちになりますよね。
その一本を前にして、「抜いてしまいたい!」という衝動と、「抜いたら増えるって聞くし…」という不安の間で、心が揺れ動く方も多いのではないでしょうか?
その長年の疑問と悩みに、あなたの町の薬剤師が優しくお答えします。
ついやってしまう「プチッ」、その行為が未来の髪の分かれ道かも

「白髪を見つけたら、どうしていますか?」
多くの方が、「白髪を抜くと増える」というウワサを一度は耳にしたことがあるはずです。
それでも、やっぱり気になって、つい指でつまんで「プチッ」と抜いてしまった…。
そんな経験、誰にでもありますよね。
その瞬間はスッキリするかもしれません。
でも、その何気ない「プチッ」という行為が、実はあなたの髪と頭皮が発している「SOS」をかき消してしまっているとしたら…?
「白髪を抜くと増える」は本当?気になるウワサの真相を薬剤師が徹底解剖!

多くの人が一度は耳にしたことがあるこのウワサ。
「白髪を抜くと、その周りの髪まで白くなって増えちゃうよ!」なんて言われると、怖くなりますよね。
まずは、この長年の疑問に、お薬のプロである薬剤師がハッキリとお答えします!
結論:増えはしない!でも、もっとずーっと怖いことが…
単刀直入に言うと、「白髪を抜くと増える」という説に、医学的・科学的な根拠はありません。
ウワサは本当ではないのです。
「え、そうなの!?じゃあやっぱり抜いてもよかったんだ!」と思ったあなた、ちょっと待ってください!
増えることはありませんが、白髪を抜くという行為は、私たちが想像する以上に、髪と頭皮にとって大きなダメージを与えてしまいます。
増えることよりも、もっと深刻で、悲しい結果を招く可能性があるのです。
あなたの毛穴はマンション?!1つの毛穴から生える髪のヒミツ

なぜ抜くことがそんなに悪いのかを理解するために、少しだけ頭皮の中を覗いてみましょう。
私たちの髪の毛は、一つの毛穴から必ず一本だけ生えているわけではありません。
実は、一つの毛穴には2~3本の髪が、まるでマンションの同居人のように一緒に生えていることが多いのです。
白髪を一本「えいっ!」と無理やり引き抜く行為は、このマンションの壁を壊し、平和に暮らしていた他の同居人(まだ黒くて元気な髪の毛たち)まで傷つけてしまうようなもの。
このイメージが、これからお話しする「3つの悲劇」につながっていくのです。
【薬剤師が解説】ゾッとする…!白髪を抜き続けると起こる3つの悲劇

白髪を抜くことは、時限爆弾のスイッチを押すようなもの。
今は良くても、数ヶ月後、数年後のあなたの髪に、取り返しのつかない悲劇をもたらすかもしれません。
悲劇①:毛根が涙…二度と髪が生えなくなる「休止期」の恐怖

髪の毛には「ヘアサイクル(毛周期)」という、髪が生まれてから抜け落ちるまでの一生のサイクルがあります。
1.成長期:髪がぐんぐん成長する期間(2~6年)
2.退行期:成長が止まる期間(約2週間)
3.休止期:髪が抜け落ち、次の髪が生える準備をするお休み期間(3~4ヶ月)
白髪を無理やり引き抜くと、この正常なサイクルが破壊されてしまいます。
特に、髪を作り出す「工場」とも言える毛母細胞や毛乳頭に深刻なダメージを与えてしまうのです。
このダメージが何度も繰り返されると、毛根は「もうここでは髪を作れない…」と涙を流し、髪を作るのをやめてしまいます。
その結果、その毛穴からは二度と髪が生えてこなくなる可能性が…。
白髪が一本なくなる代わりに、髪そのものが一本失われる。
これは、あまりにも悲しい結末ですよね。
悲劇②:頭皮が赤信号!炎症がまわりの元気な黒髪まで弱らせる

髪を引き抜いた後の毛穴は、ぽっかりと穴が空いた無防備な状態。
そこは、雑菌が侵入し放題のオープンな玄関になってしまいます。
雑菌が入り込むと、毛穴の奥で炎症が起こり、毛嚢炎(もうのうえん)というニキビのような赤く痛いデキモノができてしまうことがあります。
この炎症は、その毛穴だけの問題では済みません。
炎症が周りの頭皮にまで広がると、隣の毛穴で健やかに育っていた元気な黒髪たちにも悪影響が!
頭皮全体の環境が悪化し、健康な髪が育ちにくくなるという、まさに負のスパイラルに陥ってしまうのです。
【参照情報】
毛嚢炎は、皮膚の常在菌であるブドウ球菌などが毛穴に入り込むことで起こる皮膚の感染症です。
健康な皮膚はバリア機能で守られていますが、毛を抜くなどの行為で毛穴が傷つくと、菌が侵入しやすくなります。
(参考:第一三共ヘルスケア)
悲劇③:クセがすごい!次に生える髪がうねうねになるってホント?
運良く毛根が死なずに、また新しい髪が生えてきたとしても、安心はできません。
髪を引き抜く力で毛穴の形が歪んでしまうと、次に生えてくる髪は、まっすぐ綺麗に伸びることができず、ちぢれたり、うねったりしたクセの強い髪になってしまうことがあるのです。
白髪だった一本が、今度は扱いにくいクセ毛になって生えてくる…。
これもまた、望まない悲しい変化と言えるでしょう。
そもそも、なぜ白髪に?あなたの体からのサインを見逃さないで!

抜くことのリスクがわかったところで、次に「そもそも、どうして白髪が生えてくるの?」という根本的な疑問に目を向けてみましょう。
白髪は、あなたの体からの大切なメッセージかもしれません。
髪を黒くする工場「メラノサイト」の元気がないのかも
私たちの髪の毛は、生まれた瞬間はもともと白(無色)です。
そこに、メラノサイト(色素形成細胞)という工場で作られたメラニン色素という「黒いインク」が注入されることで、黒髪になります。
白髪になるということは、このメラノサイトの働きが弱まったり、数が減ってしまったりして、黒いインクが作れなくなっている状態。
つまり、インク切れを起こしているのです。
栄養不足?ストレス?薬剤師が考える3つの原因(ちょっぴり専門的に)
では、なぜメラノサイトは元気がなくなってしまうのでしょうか?
薬剤師の視点から、考えられる主な原因を3つ解説します。
1.栄養不足
メラニン色素の主な原料は「チロシン」というアミノ酸です。
そして、チロシンからメラニンを作る過程では、「チロシナーゼ」という酵素の働きが不可欠で、この酵素を活性化させるためには銅などのミネラルが必要になります。
つまり、バランスの悪い食事や過度なダイエットでこれらの栄養素が不足すると、インクの原料や工場を動かすエネルギーがなくなり、白髪の原因になり得ます。
2.血行不良
髪に必要な栄養は、血液によって頭皮の毛根まで運ばれます。
しかし、ストレス、睡眠不足、喫煙などで血行が悪くなると、いくら良い食事を摂っても、栄養が髪の工場まで届きません。
デスクワークで同じ姿勢が続いたり、運動不足だったりする人も注意が必要です。
3.ストレスと活性酸素
強いストレスを感じると、体内で活性酸素が大量に発生します。
この活性酸素は、細胞をサビつかせて老化させる元凶。
メラノサイトもこの攻撃の例外ではなく、活性酸素によってダメージを受けると、正常に色素を作る能力が低下してしまいます。
最近の研究では、強いストレスが交感神経を活性化させ、メラノサイトの元となる幹細胞を枯渇させてしまうこともわかってきました。
悩み事があった後に、急に白髪が増えた気がするのは、気のせいではないかもしれません。
【最新の研究】
2020年に科学雑誌『Nature』で発表されたハーバード大学の研究では、マウス実験において、強いストレスが色素幹細胞を永久に失わせ、白髪を引き起こすメカニズムが解明されました。
お薬のプロからの提案!今日からできる「抜かない」優しい白髪対策

「抜いちゃダメなのはわかった!じゃあ、どうすればいいの?」
ご安心ください。
ここからは、薬剤師である私から、今日からすぐに実践できる、髪と頭皮が喜ぶ優しい対策を3つご紹介します。
見つけちゃったらどうする?「根元でカット」が絶対のお約束!
白髪を見つけてしまった時のベストな対処法、それは「根元からハサミで短くカットする」ことです。
眉毛用の小さなハサミなどを使うと、周りの髪や頭皮を傷つける心配もなく、安全にカットできます。
これなら、毛根にダメージを与えることなく、気になる白髪を隠すことができます。
これが、あなたと白髪との平和的な付き合い方の第一歩です。
体の中から応援!薬剤師おすすめの「ツヤ髪」栄養素と食べ物
美しい髪は、健康な体から作られます。外側からのケアも大切ですが、薬剤師としては、ぜひ「内側からのケア」を意識していただきたいです。
特に、黒髪の維持に役立つ栄養素を積極的に摂ることをお勧めします。
栄養素 | 髪における主な役割 | 多く含まれる食品 |
チロシン | メラニン色素(黒髪のインク)の原料となるアミノ酸。 | チーズ、納豆・豆腐などの大豆製品、ナッツ類、鶏肉、かつお節 |
銅 | メラニン色素を作る酵素「チロシナーゼ」を活性化させる。 | レバー、ナッツ類、エビ、大豆製品、ごぼう |
亜鉛 | 髪の主成分であるケラチンの合成を助ける。 | 牡蠣、豚レバー、牛肉、チーズ、納豆 |
ビオチン | ケラチンの合成を助け、頭皮環境を健康に保つビタミン。 | レバー、卵、ナッツ類、きのこ類、アボカド |
ビタミンC・E | 強力な抗酸化作用で、活性酸素からメラノサイトを守る。 | C: パプリカ、ブロッコリー、キウイ<br>E: アーモンド、うなぎ、かぼちゃ |
これらの栄養素をバランス良く摂ることで、メラノサイトが働きやすい環境を整え、元気な髪を育む土台作りができます。
お薬手帳と一緒に相談!あなたの生活に合ったアドバイスします

「自分に足りない栄養素がわからない…」
「サプリメントも考えた方がいい?」
そんな時は、ぜひ、かかりつけの調剤薬局の薬剤師に相談してください。
私たち薬剤師は、お薬のことだけでなく、栄養や健康全般に関するプロフェッショナルです。
あなたが普段飲んでいるお薬との飲み合わせを考慮しながら、最適な食事のアドバイスや、必要であればサプリメントの選び方などもお手伝いできます。
ぜひ、お薬手帳を持って、お買い物のついでにでもお気軽にお声がけください。
あなたの生活スタイルに合わせた、パーソナルなアドバイスをさせていただきます。
まとめ:白髪は敵じゃない!あなたの体と向き合う大切なきっかけに

最後に、この記事のポイントをまとめます。
- 「白髪を抜くと増える」というウワサは嘘。
- しかし、白髪を抜くと毛根を傷つけ、毛嚢炎や将来の脱毛、クセ毛の原因になるため絶対にNG。
- 見つけてしまった白髪は、抜かずに根元でカットするのが正解。
- 白髪は栄養不足やストレスなど、体からのSOSサインかも。
- バランスの良い食事と生活習慣で、体の内側からケアすることが大切。
キラリと光る一本の白髪は、あなたを悩ませる「敵」ではありません。
それは、「最近、少し無理していない?」「食事のバランスは大丈夫?」と、あなた自身の体が送ってくれている、大切なメッセージです。
この機会に、ぜひご自身の生活を振り返り、髪だけでなく、心と体全体を労ってあげてください。もし何か困ったことがあれば、いつでも私たち薬剤師が、あなたの健康をサポートします。